総合的な洪水リスク管理の視点から、流域治水の推進や
水害リスク情報の見える化等、河川・防災に関連する
情報をできるだけわかりやすく整理して提供します。
■ 総合的な洪水リスク管理の視点
■ 地球温暖化が水文循環に及ぼす影響
■ 低平地居住の挑戦
■ 流域治水
■ 流域の水害リスク情報「見える化」
■ 川の防災情報
■ レーダ雨量計
■ 河川整備基本方針・河川整備計画
■ インフラ分野のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進
自然現象として、流域に大雨が降ると、それが河川に流出して、河道を流下する流量の増加による外力 として作用する。それが堤防をオーバーフローした場合に、流域に氾濫した水が人命や財産に損害 を与える。そしてその直接的な影響が、地域の経済活動はもとより、産業活動の連関を通じて2次災害となって広がっていく。こうしたプロセスの 連鎖をそれぞれの段階でいかにして食い止めるかをあらかじめよく検討して、対処方策を練っておくこと、これが洪水リスク管理である。
もし、人工的な気象制御によって流域での大雨 の発生そのものを止められればその後の連鎖の進行については全く心配する必要がない。(ただし、 現時点では、研究レベルを超えるものではなく、 周辺地域への「副作用」の可能性も考えると実現は容易ではないといえよう。) では、豪雨が発生したとして、流域での貯留・浸透の容量が十分にあって、河道を流下する流量の増加がほとんど起こらないとしたら、これまたそれ以降のプロセスの心配は要らない。ダム等による貯留や流域の保水、遊水機能を維持・向上させることはこのための方策であるが、どんな大雨に対しても完璧というわけにはいかない。
だとすると、次に河川を流下する流量が増えても、それが流域に氾濫しなければ被害は発生しないわけで、堤防の整備はここで 連鎖を食い止める役目を果たすことをねらいとしている。一方、氾濫しても、氾濫区域に人家や産業活動がない、もしくは建物等が浸水に耐える構造になっていれば実害は発生しない、もしくは小さく抑えることができる。洪水リスクを考慮した土地利用の誘導は、この段階でプロセスの連鎖を食い止めるための有効な方策である。
氾濫が予想される場合に、洪水予警報によって避難を促すことも被害を最小限に留めることに役立つ。万が一 人命や財産に被害が及んだ場合でも迅速な復旧、 復興対策によって被害の波及をできるだけ早く食い止めることも、全体としての被害を抑えるための重要な方策である。 流域の自然、社会条件に応じて、どの段階で連鎖を断ち切るのが適切かの観点から、必要な対策を組み合わせること、これが洪水災害プロセスの連鎖に着目した「総合的」なアプローチである。
(土木技術資料2008年12月号 「総合的な洪水リスク管理の視点」より)
(参考) 「世界の水関連災害の防止・軽減への貢献」 (土木技術資料2008年1月号)
地球規模の環境間題のひとつである地球温暖化は、人間活動によって大気中に放出される二酸化炭素、メタン、オゾン、フロン等いわゆる温室効果気体の濃度増大によってもたらされる。
地球•大気系におけるエネルギーの出入りをマクロに見ると、太陽からの短波放射と大気からの長波放射の合計が地球表面でのそれらの反射及び長波放射とバランスしている。そして、ここで重要な役割を果たしているのが、大気中の水蒸気、二酸化炭素等の温室効果気体である。これらは、太陽からの短波放射は透過するのに対し、地表からの長波放射を吸収し、また時に自ら長波放射を地表面に向かって放射する。もし大気がないと仮定した場合、平衡状態における地球表面の平均温度は約-18℃と計算される。現実の地表付近の温度が人間生活にとってより好ましいレベルにあるのは大気中の温室効果気体による温室効果のためであると言ってよい。
問題は、近年の急激な温室効果気体の濃度増大によって急速に地球規模のエネルギー収支が変化するところにある。すなわち、地面からの長波放射のうち吸収される割合が大きくなることによって、地表部の平衡温度が全体として高くなる方向にシフトすることになる。これにより例えば地球上の水文循環に影響が及び、降水量の地域分布が変化したり、南極の氷の融解や海水の膨張によって海水面が上昇し、その結果、現状の気候条件のもとで適応してきている人類の生活様式(農業生産活動や杜会基盤施設を含む)に大きなインパクトが及ぼされることが懸念されるのである。
大気中の温室効果気体の増加による地球気候変化及びそれに伴う水文循環への影響が実際に起こるのかどうか、また起こるとしてその程度はどのくらいなのかについてはまだ不確実な点も少なくない。しかしながら、現段階で、影響を予測し、それに基づいて将来影響が顕在化した場合の対策についてあらかじめ検討しておくことは、エネルギー消費の規制等の政策を通じて温室効果気体の増加をくい止めることとあわせて重要な課題である。
(土木研究所資料 第3432号「地球温暖化が日本域における水文循環に及ぼす影響の評価に関する研究」(1996年3月)より)
埼玉県越谷市の洪水ハザードマップを眺めると、市の東南部に1.5km四方ほどの真っ白いエリアがあるのに気付く。市の東半分のほとんどのエリアが利根川、江戸川および荒川が200年に一度の確率で生起する洪水による想定氾濫区域として、浸水深に応じて青色の濃淡で表示されている中に位置する越谷レイクタウンの区域である。
2008年3月にJR武蔵野線の新駅として設置された「越谷レイクタウン駅」に降り立つと、もとの水田地帯の面影は全くない。都市再生機構(UR)による特定土地区画整理事業計画が認可されたのが1999年12月。それから約13年で約225万m2の造成工事が概成した。駅の北側地域ではマンションや戸建て住宅が立ち並び、2008年10月にオープンした商業施設が圧倒的なスケールで整備されている。ちなみに、700の専門店を擁するこの商業施設の延べ床面積は3棟合計で約24.5万m2、これは日本最大級、世界でも15番目だそうだ。駅の南側では引き続き住宅地等の整備が続いているが、この勢いでいけば計画人口2万人規模の新しいまちができあがるのに、そう時間はかからないだろう。
越谷レイクタウンは、名前の通り、中心部に大きな池があって、その周りに住宅や商業施設が配置されているところに特徴がある。この池は、中川の洪水時にその流量の一部を一時的に貯留し、河川の氾濫被害を防止するための調節池として人工的に作られたものだ。そして、この池を掘った土を盛ることで、池周辺エリアの地盤をかさ上げして、「洪水ハザードマップの中の真っ白い地域」すなわち、浸水リスクが極めて低い宅地・商業地を造成したのである。開発計画検討の当初は、調節池と河川を開水路でつないで、住宅地から船で直接中川に出られるようなリゾート的住宅地を目指すアイデアもあったと、当時の経緯を知る方に聞いたことがある。実際は、流入部、流出部ともに管路で川とつながれ、河川の流量に応じて、水門やポンプを操作することによって池の水位を制御し、洪水調節に資する仕組みになっている。盛土によって氾濫域が減る分、池を掘って貯留スペースを確保することによって周辺地域にマイナスの影響を及ぼさない。
それだけでなく、洪水時の河道流量の一部を貯めこむことによって下流域の洪水氾濫防止・軽減にも役立つのである。大相模池と名付けられた調節池は面積約40万m2(上野の不忍池の約3倍)、周辺には遊歩道や桟橋が整備されており、地域に住む、訪れる人たちに快適な水辺空間を提供する。勿論、将来にわたって、水質や景観を含む「快適さ」を保つためには、地域に暮らす人々の合意と参画による、継続的な維持管理の努力が不可欠であることは言うまでもない。
構想段階を含めれば、20年がかりで洪水氾濫減に新たなまちを生み出したこのプロジェクトは、以下に述べる3つの点で、我が国における、未来志向の低平地居住の先導的事例ともいうべきものである。まず第一に、盛土造成した地域は、大規模水害発生時に住宅等の浸水被害リスクが極めて小さいとともに、周辺の浸水地域からの一時的な避難場所となりうる。大規模商業施設の倉庫は、事実上、非常時における食料・資材庫としての機能を果たすだろう。第二に、JRの駅を中心とする1.5km四方ほどのコンパクトなエリアに、住宅や商業施設等を集積することにより、日常生活上の移動がほぼ徒歩+自転車圏内で完結する。今後の施設誘致やまちの自律的な発展に期すべき機能もあろうが、いわゆる「コンパクトシティ」としての基本条件が整っている。第三に、これは若干うがった見方かもしれないが、水田地帯に新たな都市的生活の場を整備することで、従来農業用水として使われてきた水資源の一部を他用途に転ずることによって、圏域における水需給ひっ迫の解消に向けた一助となることも期待できるだろう。
これまでの「越谷レイクタウン」プロジェクトの推進にあたっては、土地所有者をはじめ地域の多くの利害関係者の合意形成に相当の時間とエネルギーを要したであろうことは、想像に難くない。長年にわたるプロジェクト関係者の尽力に心から敬意を表したい。とともに、地球気候変化に起因する水害リスクの増大が懸念される中で、安全で快適な低平地居住のよき先例となることを期待したい。
河川流域のさまざまな関係者が協働し、ハード・ソフト一体となった水災害対策「流域治水」を推進するための法的な枠組み、予算、税制等を整理した資料が、国土交通省のホームページに掲載されています。関連する報道発表資料等にも有機的にリンクが張られており、必要に応じて適宜参照するのに便利です。
【 流域治水推進のための方策】
https://www.mlit.go.jp/river/kasen/tokuteitoshikasen/index.html#01
【流域治水関連法 関係資料】
https://www.mlit.go.jp/river/kasen/ryuiki_hoan/index.html
【令和5年度の流域治水の取組みの進展について】
https://www.mlit.go.jp/report/press/mizukokudo05_hh_000205.html
(参考)
【令和6年度 水管理・国土保全局関係予算概要】
(流域治水に関連する項目:P4-6、P8-9、P18-20)
https://www.mlit.go.jp/river/basic_info/yosan/gaiyou/yosan/r06/yosangaiyou_r601.pdf
【令和7年度 水管理・国土保全局予算 概算要求概要】
(流域治水に関連する項目:P3-8、P17-49)
https://www.mlit.go.jp/page/content/001760460.pdf
また、「カワナビ」サイトでは、流域治水に関して、動画を含む各種資料を一覧できます。カラフルで親しみやすい構成になっていると思います。
【カワナビ サイト】 (国土交通省 水管理・国土保全局)
https://www.mlit.go.jp/river/kawanavi/index.html
「流域治水関連法」(特定都市河川浸水被害対策法等の一部を改正する法律)の国会での議決に際して、付帯決議のひとつとして、「流域治水の取組においては、自然環境が有する多様な機能を活かすグリーンインフラの考えを推進し、災害リスクの低減に寄与する生態系の機能を積極的に保全または再生することにより、生態系ネットワークの形成に貢献すること」 とされています。
【グリーンインフラ事例集】(グリーンインフラ官民連携プラットフォーム)
【ネイチャーポジティブを実現する川づくりに向けた有識者検討会の提言】
【河川・流域の連携による生態系ネットワーク形成のポイントブック】
10年に一度、30年に一度、50年に一度、、、といった多段階の確率規模に応じた洪水リスク(浸水想定)を「見える化」する、水害リスクマップ(浸水頻度図)について、全国の一級河川流域において作成・公表が進められています。
全国における水害リスクマップの整備状況を一覧できるポータルサイトが開設されており、各水系ごとに、表の中の●印をクリックすることにより、当該図面にアクセスできるようになっています。
住民等の迅速・円滑な避難判断に資するとともに、各流域における水害リスクを意識した土地利用や住まい方の工夫および防災まちづくりの検討などへの活用が期待されます。(現時点では、国管理河川からの氾濫による浸水のみが考慮されていることに留意が必要です。)
【水害リスクマップ ポータルサイト】 (国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/river/kasen/ryuiki_pro/risk_map.html
また、「ハザードマップポータルサイト」では、市町村が作成・公開したハザードマップを閲覧することとあわせて、住所を入力することにより、その地点の災害リスク(洪水、土砂災害、高潮、津波)を、地図上に重ね合わせて表示することができます。
【ハザードマップ ポータルサイト】 (国土交通省)
国土交通省が提供する「川の防災情報」ポータルサイトでは、全国の地上雨量計やレーダ雨量計による降水量、河川水位、洪水予警報の発令状況及び河川カメラ画像など、大雨時の避難判断等に役立つ情報がリアルタイムに配信されています。
過去の地上雨量や川の水位・流量等のデータ(水文水質データベース)にもアクセス可能です。
【川の防災情報】 https://www.river.go.jp/
【防災用語集】 https://www.river.go.jp/kawabou/glossary/pc/top
レーダ雨量は、回転するアンテナから指向性を持ったパルス状の電波を発射し、雨滴にあたり散乱して返ってくる電波を再び同じアンテナで受信し、解析することによって、降雨強度の面的な分布情報を観測する装置です。
観測の特性上、上空の雨滴分布を観測するため、地上に到達する雨とは必ずしも1:1に対応するものではありませんが、広域にわたる雨域の広がりやその移動状況に関するリアルタイム情報には地上のポイント観測では得られない大きなメリットがあり、河川管理や道路管理の実務等に広く活用されています。
返ってくる電波の強さに着目する従来型レーダ雨量計と2種類の電波の位相のずれに着目するマルチパラメータ(MP)型レーダがあり、順次後者の比重が高まってきています。
【実務技術者のためのレーダ雨量計講座】(FRICS)
http://www.river.or.jp/jigyo/radar/314.html
http://www.river.or.jp/ken2/2019/kougi15.pdf
【レーダ雨量で見る過去の豪雨事例】 (FRICS)
http://www.river.or.jp/jigyo/radar/radar_past.html
全国の一級河川について、現行の河川整備基本方針(水系ごとに、治水・利水・環境の観点から将来の河川のあるべき姿や河川整備の方針を定める)や、河川整備計画(河川整備基本方針に基づいて、今後20年から30年間の具体的な河川整備の目標およびその具体的な内容を定める)等を整理したサイトを紹介します。各地方ごとの河川名リストから検索して、関連資料にアクセスすることができます。地球気候変化等に起因する豪雨の頻発傾向を考慮した、計画の見直しも順次進められています。
また、河川に関する用語集にもリンクが張られています。
【全国の一級河川紹介サイト】 (国土交通省) https://www.mlit.go.jp/river/toukei_chousa/kasen/jiten/nihon_kawa/index.html
【河川整備基本方針・河川整備計画について】
https://www.mlit.go.jp/river/basic_info/jigyo_keikaku/gaiyou/seibi/about.html
【河川に関する用語集】
https://www.mlit.go.jp/river/pamphlet_jirei/kasen/jiten/yougo/
【河川データブック 2023】
https://www.mlit.go.jp/river/toukei_chousa/kasen_db/index.html
【防災用語集(水害・土砂災害編)】
(参考)「選択の時代における専門家の役割」(土木技術資料2011年1月号)
国土交通省が、全省的に取り組むインフラ分野のデジタルトランスフォーメーション(DX)の具体的な施策と工程等をとりまとめたアクションプランが策定・公表されています。アクションプランに位置づける個別施策集のP12-18に、水害リスク情報の3次元表示や洪水予測の高度化など、防災情報高度化とその活用に関する項目があります。
【インフラ分野のDXアクションプラン】(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001474380.pdf
【i-Construction 2.0 ~建設分野のオートメーション化】
https://www.mlit.go.jp/tec/constplan/content/001738240.pdf
洪水予測システムによる河川水位予測結果の3次元VR表示事例が、国土技術政策総合研究所 水循環研究室のホームページで紹介されています。
【水循環研究室 ホームページ】
www.nilim.go.jp/lab/feg/index.htm
CALS/ECは、Continuous Acquisition and Life Cycle Support/Electric Commerce の略。CALSは、もともと1980年代の中頃、アメリカ国防総省で利用する兵器の生産性や品質向上を目的とした、「情報通信技術による軍事の後方支援策」としてスタートしたものが、民生分野にも取り入れられて、産業界全体の幅広い取り組みに発展しました。わが国では、1990年代に、公共事業分野のCALSを「建設CALS」と名付け、電子政府構想(e-Japan)の一環として、電子入札や電子納品の導入・普及に向けた積極的な取り組みが進められました。
公共事業分野におけるCALS/ECの目的は、公共事業の企画、調査・計画、設計、調達、工事及び維持管理の各業務プロセスで発生する書類、図面、地図、写真等のデータを電子化し、情報ネットワークを介して組織や業務プロセスをまたいで共有・有効活用を図ること。それによって仕事の進め方を改革して生産性向上やコスト削減を目指すという方針は、(名称は変わっても)データのデジタル化と有効活用による働き方の抜本的な改革を目標に掲げる昨今のDXの取り組みと共通しています。
【CALS/EC とは】 (JACIC)
http://www.cals.jacic.or.jp/calsec/index.html